脳卒中後遺症 肩・腕の機能改善 自宅リハビリのポイント
脳卒中後遺症 肩・腕の機能改善 自宅リハビリのポイント
脳卒中によって肩や腕に麻痺やその他の機能障害が残ると、日常生活の様々な動作に影響が出ることがあります。着替え、食事、入浴、そして仕事に関わる動作など、腕や手の機能は多くの活動の基盤となるからです。
この記事では、脳卒中後遺症により肩や腕の機能改善を目指す方に向けて、自宅でできるリハビリの基本的な考え方と、取り組む上での重要なポイントについて解説します。専門家による指導のもとで行うリハビリを補完する情報として、日々の取り組みにお役立てください。
肩や腕の機能改善が重要な理由
脳卒中後遺症による肩や腕の機能障害は、単に腕が動かしにくいというだけでなく、様々な困難を引き起こします。例えば、
- 着替え: 服を着たり脱いだりする際に、麻痺側の腕を通す、ボタンを留めるなどが難しくなります。
- 食事: スプーンや箸を使う、お皿を持つ、切るなどの動作に支障が出ることがあります。
- 整容: 洗顔、歯磨き、髪をとかすなどの際に、麻痺側の腕がうまく使えない、あるいは支持として使えないことがあります。
- 家事・仕事: 重い物を持つ、細かい作業をする、PCを使うなどの際に、効率や安全性が低下することがあります。
これらの日常生活動作(ADL: Activities of Daily Living)の自立度を高め、社会参加を促進するためには、肩や腕の機能回復に向けたリハビリが非常に重要になります。
自宅でできる肩・腕リハビリの基本
自宅でのリハビリは、病院や通所施設でのリハビリの時間を補い、回復を促進するために有効です。取り組む上で以下の点を意識することが大切です。
- 専門家との連携: 必ず医師や理学療法士、作業療法士といった専門家の評価に基づき、個人に合ったメニューや強度で行ってください。自己判断での無理なリハビリは、痛みを増悪させたり、かえって機能回復を妨げたりする可能性があります。
- 安全の確保: 転倒しない、物を落として怪我をしないなど、周囲の環境を整え、安全に配慮して行います。
- 継続: 短時間でも良いので、毎日継続することが効果につながります。日々の生活の中にリハビリの時間を組み込む工夫をしましょう。
- 代償動作に注意: 麻痺側が動かしにくいからといって、非麻痺側の腕だけで全ての動作を行ったり、不自然な体の使い方(代償動作)を癖づけたりしないよう注意が必要です。可能な範囲で麻痺側を使う意識を持つことが、機能回復には不可欠です。
具体的な自宅リハビリメニュー例
自宅でできる肩・腕のリハビリは、機能障害の程度や種類によって異なりますが、一般的なメニューとしては以下のようなものがあります。
関節可動域訓練(ROM訓練)
関節が固まらないように、痛みを感じない範囲でゆっくりと動かします。
- 肩: 腕を前に挙げる、横に挙げる、後ろに回す、内外に回すなど。非麻痺側の手で麻痺側の腕を支えながら行う(他動介助)、あるいは麻痺側の力で可能な範囲で行う(自動・自動介助)。
- 肘: 肘を曲げ伸ばしする。
- 手関節・手指: 手首を反らせる・曲げる、指を一本ずつまたはまとめて曲げ伸ばしする。
- ポイント: 痛みがない範囲で、毎日数回行います。特に肩関節は拘縮(関節が固まること)しやすいので、予防が重要です。
筋力強化訓練
麻痺側の筋力維持・向上を目指します。軽負荷から始め、徐々に強度を上げます。
- リーチ動作: 机の上や棚に向かって手を伸ばす練習。目標物を設定すると集中しやすいでしょう。
- 物を掴む・離す: タオル、ボール、ペットボトルなど、大きさや硬さの異なる物を掴んだり離したりする練習。
- 軽い重りやセラバンドの活用: 専門家と相談の上、適切な負荷で行います。例えば、椅子に座って肘を曲げ伸ばしする運動に軽い重りを使う、セラバンドを使って腕を引く運動などがあります。
- ポイント: 反復回数やセット数は、専門家の指示に従ってください。疲れすぎないように注意が必要です。
協調運動・巧緻性訓練
複数の関節や筋肉を協調させて滑らかな動きを行う練習です。
- ペグボード: 穴にピンを挿す、ペグを並べ替えるなど。
- ブロック積み: 大きなブロックから始め、徐々に小さなブロックに挑戦します。
- 物品操作: コインを扱う、洗濯バサミをつまむ、ジッパーを上げ下げするなど、日常生活で使う物品を使って練習します。
- 両手動作: 箱に物を移し替える、タオルをたたむなど、両手を使う作業を取り入れます。
- ポイント: 目で動きを確認しながら、正確に行うことを意識します。最初はゆっくりとした動きから始め、徐々にスピードや複雑さを上げていきます。
日常生活動作(ADL)練習
リハビリで改善した機能を使って、実際の生活動作の中で積極的に麻痺側を活用します。
- 着替え: 服を着る順番を工夫する、麻痺側の腕から袖を通す練習など。
- 食事: 麻痺側の手で食器を支える、自助具(工夫された食器など)の活用を検討する。
- 整容: 麻痺側の手でタオルを持つ、洗顔料を泡立てる練習など。
- ポイント: 実際の場面で行うことで、脳と体の連携を強化し、より実用的な機能回復につながります。安全に配慮しながら、少しずつ難易度を上げていきましょう。
痛みへの対応
脳卒中後遺症では、肩関節周囲の痛み(脳卒中肩、複合性局所疼痛症候群など)が生じやすいことが知られています。痛みが強い場合は、無理に動かさず専門家に相談してください。
- 原因の特定: 痛みの原因は様々なので、まずは専門家(医師や療法士)に評価してもらうことが重要です。
- 安静と保温: 急性期や炎症が強い場合は、無理に動かさず安静にし、温めることで痛みが和らぐことがあります。
- 適切なポジショニング: 座っている時や寝ている時に、麻痺側の肩や腕が不自然な位置にならないようにクッションなどで支える工夫をします。
- 痛みに配慮した運動: 痛みのない範囲で、ゆっくりと関節を動かしたり、軽い運動を行ったりします。痛みを我慢して動かすことは逆効果になることがあります。
効果を高めるための工夫
自宅リハビリの効果をさらに高めるために、以下の点を意識してみましょう。
- 短時間・高頻度: まとまった時間が取れない場合でも、1回5分や10分でも良いので、回数を分けて行う方が効果的なことがあります。例えば、朝起きたとき、休憩時間、寝る前など、生活の隙間時間を活用します。
- 集中できる環境: テレビを消す、散らかりを片付けるなど、リハビリに集中できる環境を整えます。
- 目標設定: 「コップを麻痺側の手で持てるようになる」「服のボタンを〇個留められるようになる」など、具体的で達成可能な目標を設定することで、モチベーションを維持しやすくなります。
- 記録をつける: どのようなリハビリを何分行ったか、できるようになったこと、感じたことなどを記録しておくと、 progreso (進行)を実感できたり、専門家への報告に役立ったりします。
- 視覚 feedback: 鏡を見ながら腕や手の動きを確認したり、自分のリハビリ風景をスマートフォンで撮影して後で見返したりすることも有効です。
まとめ
脳卒中後遺症による肩や腕の機能回復は、日々の継続的なリハビリによって促進されます。自宅でのリハビリは、専門家による指導のもと、安全に配慮しながら、ご自身のペースで無理なく続けることが大切です。
この記事でご紹介したポイントやメニュー例を参考に、日々の自宅リハビリに取り組んでみてください。小さな進歩の積み重ねが、日常生活の質の向上や社会復帰への大きな一歩につながります。ご自身の体と向き合い、諦めずにリハビリを継続していきましょう。