脳卒中後遺症からの復職支援 自宅でできる実践的リハビリ
自宅でリハビリに取り組まれている皆様へ。この度、「疾患別自宅リハnavi」をご覧いただき、誠にありがとうございます。
脳卒中を経験され、現在ご自宅でリハビリに励まれている方の中には、将来的な復職や社会活動への再開を目指している方も多くいらっしゃるかと存じます。病院での集中的なリハビリを終え、いざ自宅に戻ると、「何から手をつけて良いか」「仕事や生活に必要な能力をどう高めれば良いのか」と悩まれることもあるかもしれません。
この記事では、脳卒中後遺症をお持ちの方が、自宅で復職・社会復帰に向けて取り組める実践的なリハビリの考え方と具体的な方法についてご紹介いたします。リハビリは継続が重要であり、専門家の指導の下で行われるべきですが、ご自宅での取り組みをより効果的に進めるための情報としてご活用いただければ幸いです。
復職・社会復帰に必要な能力
復職や社会活動を再開するためには、単に身体機能が回復するだけでなく、様々な能力が必要となります。脳卒中の後遺症の種類によって必要な取り組みは異なりますが、一般的に以下のような能力が重要となります。
- 基礎体力・持久力: 長時間座位を保つ、通勤・移動する、仕事中の動作を行うために必要です。
- 集中力・注意分割能力: 目の前の作業に集中する、複数の情報に同時に注意を払う、周囲の状況を把握するために必要です。これらは高次脳機能障害の一部として影響を受けることがあります。
- 記憶力・学習能力: 仕事の手順を覚える、新しい情報を習得するために必要です。
- 作業遂行能力: 計画を立てる、手順通りに作業を進める、時間管理を行う、問題を解決するために必要です。これも高次脳機能障害の一部(実行機能障害など)に関連します。
- コミュニケーション能力: 会話をする、文章を読み書きする、状況を正確に伝えるために必要です。失語症や構音障害などが影響することがあります。
- ストレス管理・精神的な安定: 仕事や社会生活に伴うストレスに対処し、意欲を維持するために重要です。
これらの能力は、自宅でのリハビリを通じて段階的に高めていくことが可能です。
自宅で取り組む復職支援リハビリメニュー例
ここでは、前述の能力向上に焦点を当てた自宅リハビリの具体的なアプローチをご紹介します。ご自身の状態や目標に合わせて、専門家(医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士など)と相談しながら実施してください。
1. 基礎体力・持久力の維持・向上
職場復帰には、身体的な疲労耐性が必要です。まずは無理のない範囲から始め、徐々に活動量を増やしていきます。
- ウォーキング: 自宅周辺や屋内で、安全な場所を選んで歩行練習を行います。距離や時間を少しずつ伸ばし、継続的な運動を心がけます。休憩を適切に挟むことが重要です。
- 簡単な筋力トレーニング: 座位や立位でのスクワット(転倒に注意)、かかと上げ、軽い負荷(ペットボトルなど)を使った腕の運動などを行います。回数は10〜15回を1セットとし、1〜2セットから始めます。
- 有酸素運動: 可能であれば、固定自転車エルゴメーターなどを使った運動も効果的です。心拍数を見ながら、無理のない範囲で行います。
ポイント: 疲労を感じる前に休憩を取る、体調がすぐれない日は休むなど、体と相談しながら進めることが大切です。
2. 集中力・注意力のトレーニング
パソコン作業や書類仕事など、集中力を要する業務に向けての準備です。
- 単純な計算練習: 制限時間を設けて、足し算や引き算を行います。
- 文字や数字の探索: 新聞や雑誌の中から特定の文字や数字を見つける練習です。
- 間違い探し: 絵や文章の間違い探しを行います。
- 並べ替え課題: カードや単語を特定のルールに従って並べ替えます。
- アプリやPCソフトの活用: 認知リハビリ用のアプリケーションやソフトウェアも市販されています。
ポイント: 短時間(5分〜15分程度)から始め、徐々に時間や課題の難易度を上げていくと効果的です。静かで集中できる環境で行いましょう。
3. 作業遂行能力の練習
仕事の段取りや効率的な進め方に関わる能力です。
- 簡単な作業の計画と実行: 例えば「朝食の準備」「洗濯物をたたむ」などの日常的な作業を、「〇時までに終わらせる」「〜の手順で行う」のように具体的に計画し、実行します。
- 買い物リスト作成と買い物: 必要なものをリストアップし、実際に買い物に行く練習をします。店内でリストを見ながら商品を探す、会計をする、といった一連の作業を行います。
- 書類整理: 郵便物や書類などを分類し、整理する練習をします。
- タイピング練習: パソコンでの文字入力を練習します。
ポイント: 最初は簡単な目標設定から始め、成功体験を積み重ねることが自信につながります。計画通りに進まなかった場合でも、原因を振り返り、次に活かす視点が重要です。
4. ストレス管理・精神的な安定
復職には心理的な準備も不可欠です。不安や焦りを軽減し、心身のバランスを整えます。
- リラクゼーション: 深呼吸、軽いストレッチ、アロマテラピー、音楽鑑賞など、ご自身がリラックスできる方法を見つけて実践します。
- 十分な休息: 規則正しい生活リズムを保ち、質の良い睡眠を確保します。
- 気分転換: 趣味の時間を持つ、友人と話す(無理のない範囲で)、軽い散歩に出かけるなど、仕事以外の活動も大切にします。
- 専門家への相談: 不安や抑うつ感が強い場合は、医師や臨床心理士に相談することをためらわないでください。
ポイント: 完璧を目指さず、体調や気分の波があることを受け入れ、無理なく続けることが大切です。
5. コミュニケーション能力の維持・向上
職場での人間関係や情報のやり取りに必要な能力です。
- 会話練習: 家族や友人との日常会話を通じて、スムーズな情報伝達を練習します。ニュースや本について意見交換するのも良いでしょう。
- 音読・復唱: 新聞記事や書籍などを声に出して読みます。聞いた話を要約して伝える練習も効果的です。
- 文字の読み書き練習: パソコンやスマートフォンを使って文章を作成する、メールを書くなどの練習を行います。
ポイント: 焦らず、ゆっくりと、正確に伝えることを意識します。伝えたいことがすぐに出てこない場合でも、別の言葉で言い換えたり、時間をかけたりすることも許容します。
専門家との連携と段階的な復帰
自宅での復職支援リハビリは、あくまで専門家による治療や指導を補完するものです。必ず主治医やリハビリ専門職と目標や内容について相談し、ご自身の状態に合ったプログラムを立ててもらうようにしてください。
また、復職は急ぐ必要はありません。まずは短時間勤務から始める、業務内容を調整するなど、段階的な復帰を検討することも重要です。職場とも連携を取り、復職に向けたサポート体制を確認しましょう。
まとめ
脳卒中後遺症からの復職・社会復帰は、多くの方にとって大きな目標の一つです。そのためには、身体機能だけでなく、体力、集中力、作業遂行能力など、様々な側面からの準備が必要となります。
この記事でご紹介した自宅での実践的リハビリは、これらの能力を段階的に高めるための一助となるものです。焦らず、ご自身のペースで、そして必ず専門家の指導のもとで取り組んでください。継続することで、着実に復職への道が開けることを願っております。
ご自宅でのリハビリが、皆様の復職・社会復帰に向けた力強い一歩となることを応援しています。